アメリカ、カリフォルニア大学からの報告です。
重症頭部外傷の集中治療管理において、良い指標として頭蓋内圧モニタリングがあります。
しかし、時にこの頭蓋内圧を指標とした治療管理でも、頭蓋内圧を適正化出来ないときや、ICP値は正常値なのに瞳孔不同や明らかにクッシング徴候が出現しているときがあり急いで開頭手術を行ったという経験もあります
ICPは万能な値、指標なのか、常に懐疑的に診ていたところではあります。
その点、本報告は非常に教育的です、
一概に’重症頭部外傷’といっても、
急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳挫傷など、様々な病型があり、かつ
そのpathophysiologyは様々です。
今回は 解剖学的’Anatomical’な要素も考慮に入れるべきと、痛感した報告です。
まず最初にまとめから。
Case lessons
・重症頭部外傷患者において急速な意識障害の進行は、血腫増大を否定しなければいけない
・側頭葉の脳損傷は正中構造偏位を伴わずとも、急速な鈎ヘルニアを来す可能性がある
わずかな臨床症状の変化であっても注意が必要;意識障害、徐脈、高血圧、瞳孔不同
・MMM(multimodal monitoring)は、局所的な脳ヘルニアを反映しない。臨床症状でのみ外科治療の適応決定をすべき
・ TBI患者は1年以上経っても良好な機能的転帰を持つことがあるため、早期の予後予測は避けるべき
1. 重症頭部外傷患者において急速な意識障害の進行は、血腫増大を否定しなければいけない
2. 側頭葉の脳損傷は正中構造偏位を伴わずとも、急速な鈎ヘルニアを来す可能性がある *わずかな臨床症状の変化であっても注意が必要;意識障害、徐脈、高血圧、瞳孔不同
3. MMM(multimodal monitoring)は、局所的な脳ヘルニアを反映しない。臨床症状でのみ外科治療の適応決定をすべき
4.重症頭部外傷であっても、1年以上の経過で良好な機能的転帰を持つことがあるため、早期の予後予測は避けるべき
では本文に入りましょう
症例 27歳男性
生来健康な男性の交通外傷
GCSE2V2M5 瞳孔正常、神経学的異常所見なし
CT:SAHが散在、両側前頭葉脳挫傷、わずかな左側頭葉皮質下出血
その後、GCSE1V1<5,徐脈、左瞳孔散大、対光反射遅延が出現
CTで、両側前頭葉、側頭葉脳挫傷の拡大あり(画像 Fig 1. A,B)
本症例で生じていること:
覚醒度低下=網様体賦活系:視床から中脳に投射する
これが中脳のわずかな圧迫でもこの経路が遮断されることにより脳幹ヘルニアを生じる
瞳孔不同は動眼神経の圧迫によるものである ➡側頭葉脳挫傷による鈎ヘルニアが圧迫の原因である
新規に出現した徐脈は、頭蓋内圧亢進に伴うCushing徴候と思われた
どのようにすれば臨床上の適正化;適正な治療管理ができたか? 本症例で侵襲的なモニタリングはすべきだったか?
脳ヘルニアに対してはEscalation therapyを行うべきであった
そして侵襲的な頭蓋内圧管理をはじめとした Multimodal monitoring MMMを遅延させずに導入すべきである
まず最初に簡易的にできる管理として、
頭側挙上、頭部回旋させないこと、
体動激しく興奮するような状況にしないこと;鎮静すること、
発熱させないこと、
高浸透圧療法
必要に応じて、緊急手術をすべき である、
さらに、もう一つの可能性として、
頭蓋内圧に寄らず、側頭葉の脳挫傷は局所的な鈎ヘルニアを引き起こす
これは注意が必要!!
<あくまでMMMは参考程度にすべき!!>
MMM はEscalation therapy の治療の指標として、また正当化するような理由として使用してはいけない。あくまで参考にすべき。
MMMはプロ―ベの挿入箇所により、損傷個所から遠ければ鈎ヘルニアを検知する能力は低くなる。
What Factors in this Case Support Immediate Surgical Decompression?
本症例で緊急減圧手術を選択するべき要因はなにだったか?
・瞳孔不同、クッシング徴候、血腫増大:特に側頭葉先端部脳挫傷
➡これらは特に、側頭葉窩の狭小化による鈎ヘルニアおよび早期ヘルニア徴候を示唆
Step-wised algolismは患者の安定化のために行うべきであるが、血腫増大と脳浮腫の悪化が著明な場合、その治療が手遅れになるため、減圧開頭術は救命のために必要である
・側頭葉血腫および早期のヘルニア徴候のあった患者群に対する外科的減圧開頭術は、これまでの頭部外傷に関する大規模ランダム化試験では対象とされていなかった。
・DECRA trial :減圧開頭術 vs. 内科的治療
両側前頭開頭で手術されていること
昨今のガイドラインに記されたICP基準値よりも低い値での閾値であったため、
実臨床に即した試験ではなかった。
・RESCUE-ICP:内科治療が劣性であった ことを示していたが、クロスオーバーが多く、内科治療群では低体温療法を用いていた。
➡今後はもっと実臨床に即した試験の構築が望まれる(これは、私見も踏まえて)
症例の続き
本症例は、瞳孔不同などの出現と意識障害が進行した後、 すぐに緊急減圧開頭(前頭側頭開頭)および側頭葉切除術を施行した。
9病日目のMRIでは、Grade3のDAIを認めた。 GCSE4V4M6でリハビリテーション外来通院となる
退院 4年後 神経症状なく、自立。 郵便配達員をできるまでに回復している。
まとめ(私見)
重症頭部外傷では刻一刻と状態が変化します
神経診察を密に行い、そして適切なタイミングで適切な治療介入を常に検討していくことが大事
そしてわずかな脳ヘルニアの徴候。少しでも臨床所見とICP値が異なる動きを見せたら、
減圧開頭術を行うことを躊躇してはいけない
頭部外傷で苦しむ患者さんを救うべく、引き続き、日々努力します!
お茶の国の脳筋先生
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